渋谷らしさと原形地

前口上

「渋谷らしさと原地形」は、とかく曖昧になりがちな“渋谷らしさ”や渋谷らしい景観についての議論を、渋谷駅周辺の地形の認識に基づいて明確化しようという試みです。2006年12月5日に開かれた第2回渋谷区景観計画シンポジウムにおいて、渋谷区景観計画基本方針に対して行われた渋谷道玄坂周辺地区まちづくり協議会の提言が原型になっています。

都市再生の名の下、東京の各地で効率化、大規模化、高層化、画一化が進行する中で、渋谷がありふれた駅ビルと大規模業務ビルの街になってしまわないためには、“渋谷らしさ”の自覚とその維持・強化が必須です。にもかかわらず、“渋谷らしさ”はおろか“渋谷らしさ”の議論の前提となる駅周辺の独特の地形の認識が人々の間で共有されておらず、各人が思い込みに基づいて論を展開しているのが現状です。そこでまず渋谷駅周辺の地形をどのように認識しイメージするかを論じ、次にそのイメージを手がかりに、渋谷らしいさまざまな景観の地形的な意味を解明します。

もちろん“渋谷らしさ”は地形につきるものではありません。しかしこうしたアプローチは“渋谷らしさ”の明晰な自覚へ至る必要な一歩でしょう。

ここに3Dモデルとして示したのが渋谷駅周辺の地形のイメージです。サイドメニューの「武蔵野台の谷戸地形」から、「渋谷川・宇田川の谷戸」「谷戸とは何か」「3つの谷が出会うY字路」までは、東京23区の地形の概観から出発して、この渋谷駅周辺の地形モデルに至る一連の考察です。

「歩くにつれてがらりと変わる景観」では、地形モデルに基づく景観分析の第一歩として、渋谷らしい景観を、台地の稜線を利用した昔からの街道の景観、 川に蓋をしたり畦道を拡張した谷道の景観、そして尾根道と谷道をつなぐ斜面の景観に分類しています。谷戸歩きの面白さは歩くにつれてがらりと変わる景観の面白さだと言われていますが、渋谷のまち歩きの面白さも、歩くにつれてがらりと変わる景観の面白さだというわけです。

「3つの谷がまだ田園だったころ」では、渋谷の街は3つの谷ではなく3つの台地の稜線を通る街道から始まったこと、そしてその宮益坂、道玄坂、公園通りの3つの街道がやはりY字のパターンをなしていることに注意を促しています。

「ハチ公の交差点は何故そこにあるのか」では、JR渋谷駅がやってくる以前からそこは、東渋谷台地の稜線の延長線(大山街道)に代々木台地の稜線の延長線(公園通り)がぶつかるY字路という特別な場所であったことを指摘してします。

「いたるところに現われるY字路」では、渋谷のまちを歩いていると、いたるところに現われるY字路は、渋谷の地形的な特徴である巨大な3つの谷のY字路の縮小モデルなのだと説明しています。

「巨大なオープンチャンネルとしての3つの谷」は、渋谷駅周辺で出会う巨大な3つの谷が、今や東京の奥深くに風を運び、東京の奥深くから水と人を運んでくる貴重なオープンチャンネルとして再発見されるべきだという主張です。

最後に「R246の切り開く景観」では、R246の切り開いた景観が、それまでの渋谷の景観とは全く異質であり、“渋谷らしさ”を蹂躙するものだったことを論じています。都市再生法に基づくR246沿いの一連の大規模開発が、今後、「六本木から連続するオフィス集積」を形成するとしても、渋谷の真の都市再生は、そのR246を現代の技術とデザインで造り直し、地上を歩行者に解放することからが始まることを確認するためです。